普段あまり聞くことがない「香木」ですが、歴史や種類、香りや効果などについて解説します。
香木(こうぼく)とは
香木とは、「良い香りがする樹木のこと」です。その樹木からの木材、またはその樹木より採れる香料のことですが、花や葉、樹皮、樹脂に香りがある樹木のことではなく、樹木の木材部分により香りがあるものです。(香木という種類の木があるわけではありません)
有名な香木といえば、「伽羅」、「沈香」、「白檀」ですがこれらは日本のお香の原料として欠かせないものとなっています。また、日本で香りのする木といえば「檜(ひのき)」や「ひば」、「くすのき」などがありますよね。
歴史
世界中に存在する香木ですが、その歴史について紹介したいと思います。
香木の最古の記述は日本書紀で、推古3年(595年)に淡路島に漂着した流木で、島人が火にくべたときに立ち上った芳香に驚き帝に献上したところ、聖徳太子が「沈香」であると教えたとあります。
推古天皇の三年夏四月、沈水(香)淡路島に漂ひ着けり。其大き一囲、島人沈水を知らず、薪に交て竈に焼く、其煙気遠く薫る、則異なりとして献る。
日本書紀
上記は香木についての記述で、「香木の価値を知らない島人が拾って、薪と一緒に燃やしたところ大変良い香りがしたので、宮廷に献上した」の訳です。
かなり昔から存在していたことが伺えますね。香りを楽しむ文化はいつの時代も廃れることなく存在しているのは人類の根源的・本能的に働きかける機能があるんだと思います。
種類・値段・香り
そのような太古から存在している香木ですが、どのような種類が存在しているのでしょうか。
日本語名 | 英語名 | 香り | 値段 | 産地 |
---|---|---|---|---|
伽羅(きゃら) | aloeswood | 涼しさをともなった辛味や長く続く甘味、その他の酸味、苦味、鹹味とのバランスが大変よい | 品質により大きくバラつきがあり1gが30,000円~60,000円 | ベトナムのごくわずかな地域 |
沈香(じんこう) | agarwood | 甘味、辛味、苦味、酸味、鹹味などで表現される香り | 大きくバラつきがあり1gが100円~5,000円 | ベトナム、カンボジア、インドネシア、ミャンマー、ラオス等 |
白檀(びゃくだん) | sandalwood | インド産はソフトな甘いウッディ調のバルサミックな香気 | 品質や産地により変わり、1gが20円~170円 | インド、インドネシア、オーストラリア、チモール、トンガ等 |
伽羅(きゃら)
伽羅は伽羅は沈香の一種であり、上記の表にもある通り香木の中でも最高級品です。
ベトナムの限られた地域でしか産出されず、非常に希少性が高く高価な香木です。現在では乱獲の影響からかほぼ新しく出ることはないと言われており、より希少性が高まっています。昔は天皇や将軍などの最高権力者、貴族や高僧、豪商といった人々しか接することができなかったほどです。
伽羅の中でも最上質なものはベトナムのダクラク省南東部、チューヤンシン山周辺からダクラク省とラムダン省そしてカインホア省の3省が接する周辺にかけての山間部中腹の森林地帯で産出されます。ベトナムの他の場所でも伽羅を産出されるのですが最高質の伽羅がなぜここにできるのかは不明です。
ちなみに上記の地域は良質の宝石が産出される地域と重なっております。
香りは、沈香の香りを表現する五味のすべてを感じる事のできるバランスがとれた芳香です。
沈香(じんこう)
正式名称は「沈水香」です。
産地はベトナム・タイ・ラオス・カンボジア・インドネシア・マレーシアで、ジンチョウゲ科アキラリア属または、ゴリスチラス属の常緑高木です。
沈香となる原木には香気がなく、傷害木に真菌類が作用して、長い年月の間に薫香を発する樹脂が生成して沈香となる。
世界で最も高価な沈香は、台湾の国立故宮博物院に展示されているもので、1990年代に違法に輸出されていた原木を排除するため、中国政府がこの木を押収しました。少なくとも樹齢1,100年と推定されるこの木は、台湾の国家的シンボルとなり、この木の価値は約5000万ドルと推定されています。
また、沈香は他にもかなり多くの用途がある。チンキ剤、ローション、パウダー、ペーストなどがこの木から作られており、この木を生産している会社も数多くある。最も一般的に使用されているのは日本の沈香である。沈香には100種類以上の品種があり、台湾で栽培されているものは高級品であることが多いです。
白檀(びゃくだん)
他の植物の根に寄生して養分を吸収する半寄生植物です。香木系のお香やフレグランス系のお香のベースなど、最もお香原料に使われている香木です。(産地はインド、インドネシア、オーストラリア、バヌアツ、フィジーなどの周辺)
油分を多く含むので、刻みや粉末にし、インセンス香原料として重用されるほか、蒸留して精油を取ったり板材として部屋の壁に貼り付けたりもします。
白檀の木で香るのは木の中心部分(心材)と根の部分だけで、伐採してから香りが立って熟成するまでに20年以上の長い年月がかかります。常温でも香り、涼やかで甘い香りが特徴です。
種類は産地によって分かれており、インドのマイソールで産出される老山白檀が最高級品とされています。良質な白檀が採れるインドでは霊木として大事に扱われ、貴人の火葬に用いたり、ヒンズー教の儀式にも欠かせないものとなっています。
楽しみ方・用途
香道で用いられます。香道とは、主に東南アジアで産出される沈水香木など各種香木の香りを鑑賞する日本の芸道で、茶道の香り版をイメージしていただけるとわかりやすいと思います。
また香道で用いられる以外にも、仏教(仏像や数珠、線香、焼香等)に関するものの材料として利用されています。
最近では、名刺入れの中にいれてさらっと香るように、ルームフレグランスのようになど色々な方法で香木が楽しまれています。香木自体が歴史的に価値があるもののため、贈り物としても利用されることもあるようです。
香木の判定
香木を鑑定するには多くの方法がありますが、いずれも五感を使って行うことが重要となります。
まず、外部を観察し、手に持って重量や質感を確認し、打感して内部の様子を聞き、常温での香り・加熱時の香りで判定します。さらに伽羅の場合は口に入れて香味をしたと喉で確認します。
今は使われていない表現等も混じっていますが参考までに判定で使われる用語等の一覧を下記にまとめました。
産地
ベトナム、中国、オーストラリア、インドネシア、インド、南太平洋諸国、東南アジア諸国、スリランカ、アフリカ諸国
形態
白皮、鉄皮、鷓斑、蟲穴、中木、金皮、縞皮、絲斑、笹、黄皮、奇皮、虎老、螺状、爪、茶皮、螺皮、虎黄、米、赤皮、金絲、白虎、奇肉、根木、紫皮、虎斑、蟻穴、馬蹄、元木、黒皮、豹斑、蟲融、山、花紋
粘土
緑油、青油、黄油、赤油、黒油、金油、飴油、茶油、紫油、鉄油
熟度(香結度)
潤結、鉄結、老結、塾結、糖結、生結、全結、枯結、密結、堅結、壮結、黄熟結、偏結
木所
沈香、沈水香、イリアン沈、紅土沈、真那賀、黄熟香、奇南、タニ沈、黄土沈、寸門陀羅、全浅香、伽羅、マレータニ、黒土沈、佐曾羅、密香、新伽羅、油タニ、沈梗、舶香、花伽羅、青タニ、沈界、白檀、早香、伽楠香、チャム、鳥水沈、老山白檀、水盤香、チャンパ沈、泥沈、鉄米沈、南洋白檀、哲香、シャム沈、赤泥、羅国、和香木、沈、アッサム沈、山打根、真南蛮、海南沈
香味
甘 | 気高い |
酸 | 繊細な |
辛 | 静かな |
苦 | しめやかな |
浅い | 懐かしい |
深い | なよびかなる |
貴(あて)なる | 雅びかなる |
あはれなる | 物深い |
奇(あや)し | やむごとない |
あらまほし | 心異なる |
言ひ知れぬ | 余薫 |
打ち湿る | 残り香 |
古めく | 移り香 |
艶なる | 追風用意 |
清らなる |
沈香の現在の状況
香木が普及にしている国は、東アジア、東南アジア、インド周辺、中近東諸国で、仏教国とイスラム教国は関心があり、キリスト教国はそれほどでもありません。
第二次世界大戦までは安定していた需給ですが、日本は高度経済成長、中東諸国はオイルマネーで発展し香木の需要も急増しました。ただ経済成長による地球環境の悪化とベトナム戦争による産地への爆撃・枯葉剤の影響によりベトナムの資源が衰退しました。
ベトナムの香木市場が一時閉鎖状態になってしまったあとは、インドネシアのカリマンタンに需要が流れます。その結果乱伐採と山火事の影響でここも資源が枯渇してしまいます。それ以降世界的に香木の資源が枯渇した状態が続いているのです。
流通に関しては、伽羅は日本がトップでしたが中国の発展により購買力が大きくなり香木市場も変化しました。日本から中国へと香木が大量に移動したと推察されますがこのブームも近年は落ち着いているようです。
以上のことから良質な香木が産出しにくくなっているため、新規の供給ではなく既存品を再度供給するほかないのが現状です。香木の絶対量は年々減少していくので無駄にせず大切に扱わないといけない資源ということは全員が認識しておくべきだと思います。
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[…] そもそも香木とは複数種類が存在していて、それぞれに産出国や希少性などの違いがあります。詳しくは「香木とは?歴史や種類、値段について」で説明していますのでご覧ください。 […]